日本一の林業学校をつくりたい!
ドライに熱い、山林の“守り人”たち

師走の森、凍みる寒さの中で、中学生らに枝打ちを教える姿。日南町立林業アカデミーの教員、小菅良豪さんと髙木康平さんだ。

町が進める木育(もくいく)の一環で、この日は地元の中学生らを対象に林業実習を行った。

「木育とは森林教育のことです。わかりやすく言うと、森の応援団を増やす取り組み。幼児から小・中・高、大学生や一般の皆さんを対象に、森の中で活動することで森に親しんでもらいます。一方で林業教育は、主に農業高校や林業系大学生を対象とした、担い手育成のための体験学習プログラム。林業アカデミーでは森林教育と林業教育の両方に取り組んでいます。子どもから大人まで体系的に学びの機会を提供しているのが特長ですね」 (小菅さん)

林業アカデミーは、全国初の町立の林業学校として2019年春に開校した。668haという日本最大級の演習林をフィールドに、実践重視のカリキュラムのもと、林業全般についての幅広い知識と技術を学べる。修学期間は1年で、定員10名の少人数制。全国から幅広い世代の学生を募集している。

小菅さんは、森の現場を熟知した林業研究者であり、アカデミー立ち上げメンバーの一人だ。30歳手前で広島県の森林組合に入り、作業員の仕事にやりがいを感じていたが、その一方で林業が抱える様々な問題点にも気付いた。それらを改善するための研究をしたいと、作業員として働く傍ら社会人大学生として鳥取大学大学院へ。ちょうど学位を取った時、開校を控えたアカデミーから声がかかった。

また髙木さんも、鳥取大学と大学院で学んだ研究者。生態学をベースに、自然を活かした産業振興や里山保全にまつわる研究に長く取り組んでいる。大学卒業後は自治体職員、青年海外協力隊、岐阜県の森林組合で現場管理の事務方を経験。そして大学院に復学して研究を再開した頃、アカデミーの講師を探していた小菅さんのスカウト(?)に遭遇し、恩師の勧めもあって講師を引き受けた。

「アカデミーでは、現場作業の全般を1年かけて実習し、理論的な部分を大学の先生の講義で補強します。カリキュラムはかなり充実していると自負していますけど、初年度と2年目は知名度が全く無いので学生募集に苦労しました。でも徐々に名前が浸透してきて、最近では定員以上の応募がありますね」 (小菅さん)

林業を志す若者が、日南町を目指して集まってくる。開校4年めを迎えた林業アカデミーは、少しずつだが着実に、移住者を引き寄せる吸引力になっているようだ。

そんなアカデミーを支える小菅さんと髙木さんだが、二人の場合、日南町との“なれそめ”はまさにご縁。やりたい仕事に邁進していたら偶然ここに繫がった。研究や仕事が忙しいため、住民との交流や地域活動に参加できる機会は少ない。そういう意味では町との関係はドライだ。やりたい仕事がなくなったら迷い無く出て行くかもしれない。

それでも今、小菅さんの胸には「アカデミーを日本一の林業学校にする!」という想いが燃えている。この夢は日南町だからこそ描けた。

「日本林業全体の発展に寄与したいと常に考えています。だからこそ大変なんですけど(笑)、ここは自分の能力が活かせる場所なので、頑張れています。忙しくて地域活動にはほぼ出られませんが…自分たちの専門領域、つまり林業の研究と教育で地域の役に立っていこうと割り切っています」

そう語る小菅さんが目下取り組んでいるのは、基礎から最新の知見まで網羅した林業のテキスト制作だ。

「どんな人が教員になっても質の高い林業教育をできるためのテキストです。林業は昔から『見て覚えろ』の世界で、怪我して辞めてしまうことも多かった。でも正しい知識を身につけたら防げる事故も多いんです。テキストが完成したら全国の関係者に広めて、日南町の林業アカデミーから日本の林業を底上げするための発信をしていきたい」

また髙木さんは、「林業や林業従事者の地位をもっと向上させたい」と意気込む。

「優秀な人材を多く育てることで林業従事者の活躍の場は広がる。肉体労働が基本だけど、林業にまつわる頭脳労働の部分もちゃんと担える人材を増やしたいんです。そのためには森林の生態系システムや、人の営みと環境保全の関わり、木材生産以外の林業の役割なども幅広く学ぶことが必要で、林業アカデミーならそれが出来そうだなって。日南町は今、町を挙げて森林教育と林業教育に取り組んでいるでしょ。その姿勢が揺るがない限りは、俺はここにいますよ」

安全で、稼げて、やりがいのある林業へ。日本の林業界を日南町から変えていく。

その可能性を信じて、二人は今日も森へ入る。

Yoshitake Kosuga

日南町立林業アカデミーの専任教員。滋賀県出身。会計事務所等で事務職を経験した後、広島県の森林組合へ転職。造林の作業員として11年間働く中で林業について問題意識が生まれ、社会人大学生として大学院で林業事業体の経営戦略の研究に取り組む。修士課程は島根県立大学、博士課程は鳥取大学大学院連合農学研究科で学び、農学博士の学位を取得。恩師の紹介で林業アカデミーの立ち上げスタッフとして参画。開校1年前から日南町の地域林政アドバイザーとなり、カリキュラム策定や学生募集などに奔走した。森林の現場を熟知する研究者・教育者として、次世代を担う林業従事者の育成に情熱を燃やす。

Kohei Takagi

日南町立林業アカデミーの専任教員。岐阜県出身。森林の保全管理や砂漠の緑化に興味があり、鳥取大学農学部で生物学や生態学を学ぶ。日南町役場で3年間働いた後、JICAの青年海外協力隊員として南太平洋のソロモンへ派遣され植林の普及活動等に2年間取り組む。帰国後は岐阜県の森林組合での勤務を経て、2018年に鳥取大学大学院博士課程へ復学。林業アカデミーには2019年春の開校当初から生態学の講師として関わり、博士課程終了後そのまま就職した。勤務と併行して里山の保全管理についての研究を続けており、2022年度中に博士号を取得予定。